
前回は、空き家を持ち続けるだけで、平均的な家で年に約23万〜39万円かかるという試算を紹介しました(前回の記事:空き家の維持費)。
すると次に浮かぶのが、「じゃあ、壊したらいくらかかるの?」という疑問です。実家を片づけようと思っても、解体の見積もりを取ったことがある人はほとんどいません。金額の見当がつかないまま、なんとなく先送りになっている家も多いはずです。
この記事では、国の調査と公的な統計をもとに、空き家の解体費用の目安と、解体を決める前に確かめておきたいことを整理します。
国土交通省の調査で、空き家を「このまま空き家にしておく」と答えた人に理由を聞いたところ、1位は「物置として必要」(60.3%)、2位が「解体費用をかけたくない」(46.9%)でした。半数近くが、解体のお金を理由に挙げています。

「取り壊すと固定資産税が高くなる」も25.6%ありました。お金の心配が、空き家を動かせない大きな理由になっていることがわかります。
最新の令和6年の調査でも、使う予定のない空き家を持つ世帯の約4割が「今後も空き家として持っておく」と答えています。一方で、「解体する」は19.2%、「売却する」は18.3%でした。
また、相続した空き家の7割超は1980年以前に建てられたものです。古い家ほど傷みが進みやすく、いずれは「直すか、壊すか、売るか」を考える時期がやってきます。
では、実際にいくらかかるのでしょうか。
解体費用には、国が示す統一の相場はありません。ただ、不動産会社やファイナンシャルプランナーの解説では、木造住宅の本体工事でおおむね「延べ床1坪あたり3万〜5万円」が目安とされています。
総務省の統計では、一戸建ての延べ面積は平均126.32㎡、坪にすると約38坪です。これに当てはめると、
・坪3万円なら 約115万円
・坪4万円なら 約153万円
・坪5万円なら 約191万円
となります(試算)。

ご自身の家なら、次の式でおおよその金額がつかめます。
・延べ床の坪数 × 3万〜5万円 = 本体工事の目安
・坪数は「延べ床面積(㎡)÷ 3.3」で計算できます
なお、国土交通省が相続空き家の税の特例を説明する具体例でも、解体費(除却費)を200万円として計算しています。100万円台後半から200万円前後を、ひとつの目安として持っておくとよいでしょう。
注意したいのは、これが「建物の本体」だけの金額だということです。家財の処分、ブロック塀や庭木などの撤去、アスベスト(石綿)対策、地中から出てくる古い基礎やごみの処分などは、別にかかることがあります。重機が入れない狭い道に面した家も、手作業が増えて高くなりやすいです。
もうひとつ知っておきたいのが、工事費の流れです。
国土交通省が毎年決めている「公共工事設計労務単価」(工事の見積もりに使う、職人さんの1日あたりの賃金の目安)は、2026年3月の改定で14年連続の上昇となりました。全国・全職種の平均は2万5,834円で、2013年度の1万5,175円と比べると約1.7倍です。

これは公共工事の単価なので、民間の解体費用そのものではありません。ただ、解体工事は人の手がかかる仕事で、人件費の割合が大きいとされています。人手不足が続くなか、少なくとも「待てば安くなる」とは言いにくい状況です。
前回の維持費と比べてみると、解体費用(約115万〜191万円)は、維持費(年約23万〜39万円)のおよそ3〜8年分にあたります(試算)。持ち続けるか、区切りをつけるかを考えるときの、ひとつの物差しになると思います。
ただし、「とにかく早く壊せばいい」というわけではありません。先に壊すか、古家付きのまま売るかで、税金や補助の扱いが変わるからです。

・補助金:多くの市区町村に、老朽化した空き家の解体補助があります。たとえば栃木市では、倒壊のおそれがある空き家に「費用の2分の1・上限50万円」を助成しています。工事の契約前に申請しないと対象外になる自治体も多いので、見積もりを取る段階で役所に確認しましょう。
・固定資産税:家が建っている土地は「住宅用地の特例」で、200㎡までの部分は固定資産税の課税標準が6分の1に軽くなっています。解体するとこの特例がなくなるため、税額は上がりやすくなります。何倍になるかは土地ごとに違うので、市区町村の資産税の窓口で試算してもらうと安心です。
・3,000万円特別控除:相続した空き家(1981年5月31日以前に建てられたものなど)を売るとき、条件を満たせば売却益から最大3,000万円を差し引ける特例です。2024年からは、売った後に買主が翌年2月15日までに解体する場合も対象になりました。「自分で壊してから売る」以外の道もある、ということです。期限は2027年12月31日までの売却です。
・アスベスト調査:解体工事では、規模にかかわらずアスベストの事前調査が義務です。2023年10月からは資格を持つ人が調べる決まりになりました。古い家ほど調査や対策の費用を見込んでおく必要があります。
・国に土地を引き渡す制度:相続した土地を国が引き取る「相続土地国庫帰属制度」は、建物がある土地は申請できません。この制度を考えるなら、解体が前提になります。
解体するか、残すか、売るか。どれが正解かは、家の状態や場所、家族の事情によって違います。
ただ、金額がわからないまま迷っていると、そのあいだも維持費はかかり続け、建物は傷み、工事費は上がっていくかもしれません。まずは判断の材料をそろえるところから始めてみてください。
・固定資産税の課税明細書で、家の延べ床面積を確認し、「坪数×3万〜5万円」で概算を出してみる
・空き家がある市区町村のホームページで、解体補助の有無と申請時期を調べる
・解体した場合の固定資産税がいくらになるか、資産税の窓口で聞いてみる
・売却も考えるなら、不動産会社に「古家付き」と「更地」の両方で査定してもらう
数字が見えると、家族とも話し合いやすくなります。次回も、データから空き家のこれからを考えていきます。
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■出典
・国土交通省「令和元年空き家所有者実態調査 集計結果」(2020年12月16日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001378475.pdf
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査の調査結果」(2025年8月29日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html
結果のポイント:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001907435.pdf
・総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/
・国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(2026年2月17日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00337.html
・国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)について」
https://www.mlit.go.jp/common/001284878.pdf
・千葉市「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除のご案内」(2024年以降の譲渡後の解体、期限)
https://www.city.chiba.jp/toshi/toshi/anzen/documents/3000.pdf
・鹿児島市「住宅用地に対する課税標準の特例」
https://www.city.kagoshima.lg.jp/faq-kurashi/shisanzei/q39.html
・栃木市「空き家の解体費用に対する一部助成制度」
https://www.city.tochigi.lg.jp/uploaded/attachment/61405.pdf
・羽曳野市「木造住宅除却補助制度」
https://www.city.habikino.lg.jp/material/files/group/48/akiyacp.pdf
・厚生労働省「石綿総合情報ポータルサイト」
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/
・法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
https://www.moj.go.jp/content/001376268.pdf
・国土交通省「令和7年度における住宅局所管事業に係る標準建設費等について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001984775.pdf
・解体費用の坪単価の目安(民間):FINANCIAL FIELD https://financial-field.com/inheritance/entry-399789 / HOME4U https://www.home4u.jp/sell/juku/course/sell-66-12327 / ダイヤモンド不動産研究所 https://diamond-fudosan.jp/articles/-/1112475
※「空き家にしておく理由」は令和元年調査で、今後5年程度「空き家にしておく(物置を含む)」と答えた世帯への質問(複数回答、n=1,097)です。令和6年調査の「今後の利用意向」は、使用目的のない空き家を持つ世帯の回答です。
※解体費用は、延べ面積126.32㎡(1坪=3.30579㎡で約38.2坪)に、民間各社が示す木造の目安(坪3万〜5万円)を掛けた試算です。家財処分・外構撤去・アスベスト対策・地中埋設物の処分・整地などは含みません。地域や立地、建物の構造(鉄骨造・鉄筋コンクリート造はより高い傾向)で大きく変わるため、必ず複数社の現地見積もりで確認してください。
※参考までに、国が補助金の算定に用いる除却工事費の上限は、木造で1㎡あたり3万3,000円(令和7年度)です。これは補助額を計算するための上限で、相場ではありません。
※公共工事設計労務単価は公共工事の積算用の単価で、民間工事の価格を直接示すものではありません。
※「維持費の3〜8年分」は、前回記事の維持費の試算(年約23万〜39万円)と今回の解体費用の試算から計算したもので、家ごとに変わります。
※解体補助の内容・要件・申請時期は自治体ごとに異なります。住宅用地の特例は1月1日時点の状況で判定され、解体の翌年度から影響します。3,000万円特別控除は、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年12月31日までの譲渡が対象で、相続人が3人以上の場合は2,000万円となるなど、細かな要件があります。適用の可否は税務署・税理士に、補助金は市区町村の窓口にご相談ください。