
前回は、空き家を持っているだけで年に約23万〜39万円の維持費がかかる、という試算をお伝えしました。今回はお金とは別の「見えにくい負担」、ご近所との関係の話です。
実家が空き家になってしばらくたったころ、近所の方から「庭の木が伸びてきて困っている」「蜂が飛んでいる」と電話がかかってくる。遠くに住んでいると、すぐには見に行けません。こうした連絡は、空き家を持つ人にとってよくある悩みの一つです。
この記事では、国の調査と自治体の資料をもとに、空き家で近所から苦情が出やすい4つのトラブル(雑草・害虫・ハクビシン・不法投棄)と、起きる前にできる予防策をまとめました。
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査」では、空き家を持つ世帯に「管理面での心配事」をたずねています(複数回答)。
いちばん多いのは「住宅の傷みの進行」で75.7%。その次が「樹木・雑草の繁茂」で58.0%でした。地震や台風による損壊(56.9%)、不審者の侵入や放火(51.7%)よりも多い結果です。
この記事で扱う近所トラブルに関係する項目では、ほかに「動物の棲みつき」26.2%、「害虫による周辺住民への健康被害」9.2%、「ゴミの放置などによる悪臭」2.4%が挙がっています。

では、近所の人は実際に何に困っているのでしょうか。全国の集計は見当たらないため、自治体が公表している資料を見てみます。
埼玉県北本市では、2015年度から2017年6月までに空き家の相談・苦情が92件寄せられ、そのうち「草木」に関するものが63件(約68.5%)でした。「建物の傷み」約35.9%、「害虫」約20.7%、「ゴミ等」約9.8%、「小動物」約8.7%と続きます(1件に複数の内容を含みます)。
大阪府池田市でも、2021年度の相談55件のうち「雑草・樹木の繁茂」が42件と、同じように草木がいちばん多くなっています。
北本市の資料では、相談が多いのは草木が伸びる5〜10月で、特に6〜7月。9〜10月はスズメバチなど蜂の苦情が増えたとされています。また、前年に続いて相談があった9件は、すべて草木の繁茂でした。草木は一度刈っても、毎年同じ季節にくり返し問題になりやすいということです。

4大トラブルは「時期」を知れば先回りできる
ここからは、4つのトラブルごとに、困りごとと予防策を整理します。早見表にまとめたので、保存しておくと便利です。

道路や隣の敷地へのはみ出し、枝の越境、見通しの悪化が代表的です。虫のすみかにもなります。
2023年4月の民法改正で、隣の家の枝が越境してきた場合、竹木の所有者に切るよう催告しても相当の期間内に切らないとき、所有者が分からないとき、急迫の事情があるときは、隣の人が自分で枝を切れるようになりました(民法233条)。「相当の期間」は、自治体の案内では基本的に2週間程度とされています。放っておくと、隣の方が自分で枝を切る、という事態にもなりえます。
予防策は、伸びきる前に手を入れることです。梅雨の前と夏の終わりに草刈り・剪定をする、防草シートや砂利で生えにくくする、といった方法があります。
軒下や庭木の蜂の巣、水がたまった鉢や容器からの蚊の発生などです。北本市の資料でも、秋に蜂の苦情が増えていました。
予防策は、水がたまる物を片づけることと、巣が大きくなる前(春〜初夏)に軒下や庭木を点検することです。巣を見つけたら、無理をせず市区町村の窓口や専門業者に相談しましょう。
屋根裏にすみつかれると、フン尿による汚れやにおい、夜中の物音が近所にも伝わります。
注意したいのは、ハクビシンは鳥獣保護管理法の対象で、許可なく捕まえることはできない点です。捕獲が必要なら、自治体や許可を持つ業者に相談します。自治体によっては捕獲を支援する制度もあります。
自分でできる予防は「入らせない」こと。日野市の対策マニュアルでは、ハクビシンは8cm四方ほどのすき間でも通り抜けるとされています。換気口や屋根まわりのすき間をふさぐ、屋根に登れる枝を切る、庭の果実を残さない、といった対策が自治体の案内でも勧められています。
空き家の敷地に、粗大ごみや家電などを捨てられるケースです。においや見た目の悪化で、近所の方の迷惑になります。
廃棄物処理法5条では、土地や建物の占有者・管理者は清潔を保つよう努めること、土地の所有者は不法投棄などを見つけたら都道府県や市町村に通報するよう努めることが定められています。
予防策は、郵便物やチラシをためない、捨てられたらすぐ撤去・通報する、近所の方に連絡先を伝えておく、など「管理している」ことが伝わる状態を保つことです。
4つのトラブルに共通するのは、「こまめに行けない」と起きやすくなることです。
同じ国の調査で、月に1回以上管理している割合を、自宅から空き家までの時間別に見ると、徒歩圏内では約81%ですが、車や電車で1〜3時間では約54%、3時間超では約43%まで下がります。
また、管理の頻度別に「構造上の不具合」が出ている割合を見ると、月1回以上管理している空き家では15〜18%ほどですが、年に1〜数回では24.3%、数年に1回では33.3%でした。
これは「関係がある」ことを示すデータで、管理を減らしたから必ず傷む、とまでは言えません。ただ、雑草も蜂の巣もハクビシンも、気づくのが遅れるほど対処が大変になるのは確かです。
管理をする上での課題としても、「管理の作業が大変」31.7%、「遠方に住んでいるので往訪が困難」21.6%が挙がっています。

近所トラブルは「気まずい」だけでは終わらない場合があります。
・建物の一部が落ちて人や車を傷つけた場合など、所有者が損害賠償の責任を負うことがあります(民法717条)。
・自治体から「管理不全空家」や「特定空家」として勧告を受けると、土地の固定資産税を下げる特例(住宅用地特例)の対象から外れます(前回の記事でくわしく紹介しました)。
・ところが同じ国の調査では、この税の特例が外れる仕組みを「知らない」と答えた世帯が5割を超えていました。
苦情は、自治体が空き家の状態を知るきっかけにもなります。早めに手を打つことが、ご近所のためにも、自分のためにもなります。
まずは「次の草刈りの日」を決めることから
全部を一度にやる必要はありません。今日できることから始めてみてください。
・カレンダーに「梅雨前」と「夏の終わり」の草刈りの日を入れる(自分で行けないなら、シルバー人材センターや管理サービスの見積もりを取る)
・近所の方1〜2軒に、連絡先を伝えておく(何かあったときに直接連絡してもらえる)
・次に行ったとき、軒下・換気口・屋根まわりのすき間と、郵便受けを確認する
・「この先も管理を続けるか、活用や売却を考えるか」を、家族で一度話してみる
どの選択が正解かは、家庭によって違います。ただ、国の調査でも、管理の頻度が下がるほど建物の傷みが目立つ傾向がありました。草刈りや見回りの手間と費用は、空き家を持っている限り毎年続きます。決めないまま時間が過ぎることにもコストがある、ということは頭の片すみに置いておいてもよいかもしれません。
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■出典
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 報告書」(2025年8月)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001907491.pdf
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査の調査結果」報道発表(2025年8月29日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html
・北本市 空家等対策協議会 資料4「空き家等の相談苦情件数集計」
https://www.city.kitamoto.lg.jp/material/files/group/30/1kaisiryou4.pdf
・池田市「空家等対策の取組状況について」(令和4年度第1回 池田市空家等対策協議会 資料1)
https://www.city.ikeda.osaka.jp/material/files/group/86/Shiryo.pdf
・広島市「越境した木の枝等の切取り」(民法233条の改正内容)
https://www.city.hiroshima.lg.jp/living/sumai/1003056/1018461.html
・町田市「敷地や屋根裏に侵入するアライグマ・ハクビシンを捕獲するには?」
https://www.city.machida.tokyo.jp/kurashi/kankyo/kankyo/midori/gairaishu/araigumahakubishin.files/P1_araiguma-hakubishin.pdf
・日野市「アライグマ・ハクビシン対策マニュアル」
https://www.city.hino.lg.jp/_res/projects/default_project/page/001/011/318/r5arahaku.pdf
・東京都環境局「土地所有者の皆様へ(不法投棄を未然に防ぐために)」(廃棄物処理法5条)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/improper_handling-improper_handling-files-tochisyoyuusyahe
※「管理面での心配事」「管理をする上での課題」は複数回答です。調査は空き家を所有する世帯を対象とした全国の推計です。
※距離別・頻度別のデータは、管理者がいる空き家が対象です。距離別の「月に1回以上」は「ほぼ毎日」「週に1〜数回」「月に1〜数回」の合計です(81.4%、73.2%、54.2%、42.6%)。いずれも関係を示すもので、因果関係を示すものではありません。
※北本市・池田市の数字は各市の一例で、全国の集計ではありません。北本市の割合は、相談92件に対する各内容の件数の割合です。
※民法233条の「相当の期間」は事案によります。枝を切る前に、弁護士・司法書士など専門家や自治体の相談窓口に相談することが勧められています。
※ハクビシンの捕獲の許可や支援制度は、都道府県・市区町村によって異なります。お住まいの自治体の担当窓口に確認してください。
※予防策は一般的な目安です。管理不全空家・特定空家の判断や手続きは、空き家のある市区町村にお問い合わせください。