
親が施設に入った、あるいは亡くなって、実家が空き家になった。そのとき最初に迷いやすいのが「水道・電気・ガスは止めていいのか」という問題です。
止めれば料金は浮きます。でも、掃除に行ったときに水も電気も使えないと困る。かといって、誰もいない家に電気やガスが通っているのも不安です。
この記事では、空き家のライフラインを「残すもの」「止めるもの」に分ける判断基準をまとめました。結論から言うと、「ガスは止める。水道と電気は、月1回以上通えるなら残す」が基本の考え方です。
まず、3つのライフラインを「残すとできること」と「止めると減る心配」で比べてみます。

・水道:残すと、掃除や「通水(蛇口や排水口に水を流すこと)」ができます。止めると、冬の凍結で水道管が破裂し、気づかないまま水が漏れ続ける心配が減ります。
・電気:残すと、照明・換気扇・掃除機が使え、内覧や修理の見積もりもしやすくなります。止めると、漏電や、停電が戻ったときの電気火災の心配が減ります。
・ガス:管理の作業ではほとんど使いません。止めればガス漏れや火災の心配がなくなり、基本料金もかかりません。
長野県千曲市の空き家相談会でも、専門家が、火災を防ぐためにガスは止め、水は排水や臭いのために定期的に流すよう助言しています。
ガスは再開するとき、ガス会社の作業員が来て立ち会いのもとで開けるのが一般的です。使う予定ができてから手続きすれば十分なので、まず止めて困ることはほとんどありません。
水道は「通水」と「凍結」の両方に気を配る
水道を残す最大の理由は、排水口の「封水(ふうすい)」を保つためです。封水とは、トイレや流し台の排水管にたまっている水のことで、下水の臭いや虫が上がってくるのをふさいでいます。長く水を流さないと、この水が蒸発してなくなります。
国土交通省の「空き家管理チェックリスト」でも、定期的に行う管理として「排水設備(流し・トイレ等)の通水」が挙げられ、封水切れによる悪臭が起きていないかを確認するよう求めています。
ところが、実際に水回りの点検や通水をしている人は多くありません。

国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」によると、管理をしている空き家のうち、外回りの清掃・草取りは79.5%、戸締まりの確認は74.9%、換気は66.9%が行っています。一方、水回りの点検・通水は43.3%にとどまります。
もう一つ気をつけたいのが冬の凍結です。2016年と2018年の寒波では、空き家の水道管が凍って破損し、漏水への対応に時間がかかったことで、地域の断水が広がったり長引いたりしました。厚生労働省と国土交通省は、空き家の止水栓をあらかじめ閉めておくことが重要だとしています。
国交省のチェックリストでも、冬は給水管の元栓を閉めることが管理の項目に入っています。水道を残す場合も、帰るときは止水栓(水道メーターの近くにある栓)を閉める習慣をつけておくと安心です。
電気があると、換気扇を回す、掃除機をかける、夕方でも室内の傷みを確かめる、といった作業がぐっと楽になります。売却や賃貸を考えて、不動産会社やリフォーム会社に家を見てもらうときにも役立ちます。
ただし、誰もいない家で電気が通りっぱなしなのは心配の種にもなります。内閣府の検討会の資料によると、阪神・淡路大震災で原因が分かった火災のうち、約61%が電気に起因するものだったとされています。停電から電気が戻ったときに、倒れた家電や傷んだコードから火が出る、といったケースです。
また、消防庁の「令和7年版 消防白書」によると、2024年の放火と放火の疑いによる火災は3,904件で、全火災の10.5%を占めます。前出の国交省調査でも、空き家の管理で心配なこととして「不審者の侵入や放火」を挙げた世帯は51.7%にのぼります。
そこで、電気は契約を残したまま、帰るときに分電盤のブレーカーを落としておくのがおすすめです。冷蔵庫など使わない家電は、コンセントを抜いておきましょう。
では、何を基準に「残す・止める」を決めればいいのでしょうか。データを見ると、ポイントは「家に通う回数」です。

同じ国交省の調査で、管理の頻度別に「構造上の不具合(傾き・雨漏りによる腐朽など)が生じていた」空き家の割合を見ると、月1回以上管理している家では15.3〜17.5%でした。これが年に数回だと24.3%、数年に1回だと33.3%に増えます。
ライフラインは、通って手入れをするための「道具」です。通えるなら残したほうが手入れの質が上がり、通えないなら、残しておいても使われずにリスクだけが残ります。目安は次のとおりです。
・月1回以上通える:水道と電気を残す。ガスは止める。帰るときは止水栓とブレーカーを閉める。
・年に数回しか通えない、遠方に住んでいる:ガスは止める。水道は止水栓を閉め、水道局に使用中止の手続きを相談する。電気はブレーカーを落とし、契約を続けるか見直す。
・寒い地域や、冬に長く行けない:水道管の「水抜き」をしておく(方法は地域の水道局の案内を確認)。
・売却・賃貸に向けて準備中:内覧や見積もりのために、水道と電気は残しておくと進めやすい。
では、電気と水道を残すと、使わなくてもいくらかかるのでしょうか。東京の料金表で、基本料金だけを試算しました。

・電気(東京電力エナジーパートナー 従量電灯B・30A):月935.25円×12か月=年11,223円
・水道+下水道(東京都水道局 23区・口径20mm):(1,170円+560円)×1.1×12か月=年22,836円
・ガス:閉栓すれば0円
合計は年約3.4万円、10年で約34万円です。電気の契約を10Aに下げると、年約2.7万円になります。
この金額は「契約を続けるだけ」でかかる分で、実際には使った分や燃料費調整額なども加わります。料金は地域や契約によって大きく違うので、ご自身の検針票の金額に置き換えて考えてみてください。
前回の記事では、空き家の維持費は平均的な家で年23万〜39万円という試算を紹介しました。ライフラインはその一部ですが、「とりあえず全部そのまま」にしておくと、使わない分まで払い続けることになりやすい項目です。
ライフラインの判断は、結局「この家とどう付き合うか」の判断です。どれが正解かは家庭によって違います。ただ、データが示しているのは、決めないまま通う回数が減っていくと、家の傷みも料金も積み重なっていくということです。
・検針票や引き落とし明細で、電気・水道・ガスの契約と毎月の金額を確認する
・ガスを使っていなければ、ガス会社に閉栓を申し込む
・次に家に行く日を決め、帰るときに止水栓とブレーカーを閉める
・「この先も通い続けられるか」を家族で話し、難しそうなら売却や賃貸、管理サービスの利用も選択肢に入れる
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■出典
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 報告書」(2025年8月29日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html
・国土交通省「空き家の所有者・管理者のみなさまへ(空き家管理チェックリスト)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/002019879.pdf
・厚生労働省・国土交通省 事務連絡「空き家に関する情報共有について」(2018年3月30日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000464889.pdf
・内閣府「大規模地震時の電気火災の発生抑制に関する検討会」資料
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/denkikasaitaisaku/6/pdf/siryou3.pdf
・総務省消防庁「令和7年版 消防白書」出火原因
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r7/chapter1/section1/para1/69229.html
・千曲市「空き家相談会の相談結果」
https://www.city.chikuma.lg.jp/material/files/group/47/dai1kaisoudannkainosoudannkekka.pdf
・東京都水道局「水道料金・下水道料金の計算方法(23区)」
https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/tetsuduki/ryokin/keisan_23
・東京電力エナジーパートナー「従量電灯B」基本料金(税込)
※「管理の内容」は、主な管理者がいる空き家の所有世帯(推計122.5万世帯)への複数回答です。
※「構造上の不具合」は、調査票で「建物が全体的に腐朽・破損し、屋根の変形や壁・柱・床の傾き、雨漏りによる天井裏の著しい腐朽などがある」と回答されたものです。
※基本料金の試算は、2026年10月時点の東京の料金表による概算です。水道料金は税抜額に1.1を掛け、電気は税込額を使いました。燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金・使用量分は含みません。東京都の水道基本料金の一時的な無償化期間は考慮していません。
※止水栓の位置や水抜きの方法、水道の使用中止の手続きは地域で異なります。お住まいの水道局・ガス会社・電力会社にご確認ください。