相続前に何もしなかった家は「空き家のまま」が45%。反対する親・兄弟との話し合い方

以前に、空き家を持ち続けるだけで、平均的な家で年に約23万〜39万円かかるという試算を紹介しました。

「それなら早めに手放したほうがいい」と頭では分かっても、実際には別の壁があります。

「お父さんが建てた家を売るなんて」

「いつか帰るかもしれないから、残しておきたい」

親や兄弟のこうした声です。

実家は、お金だけでは測れない場所です。反対する気持ちは、決して間違いではありません。

ただ、何も決めないまま時間がたつと、選べる道が少しずつ減っていくのも事実です。

この記事では

・人はなぜ空き家を「そのまま」にするのか

・相続前に話し合った家と、そうでない家では何が違うのか

・反対する家族と、どう話を進めればよいか

をまとめます。

「空き家のまま」の理由は、物・お金・気持ち

国の調査で、今後5年ほど空き家のまま持っておくと答えた世帯に理由を聞いています(複数回答)。

空き家としておく理由

いちばん多いのは「物置として必要」で55.8%。次が「解体費用をかけたくない」47.3%、「住宅が古い」37.0%です。

「仏壇など、ほかに置き場がない物がある」「家財などの処理が難しい」も、それぞれ21.6%ありました。

理由を大きく分けると、次の4つになります。

・物:家財、仏壇、思い出の品の行き場がない

・お金:解体費用や、更地にしたときの固定資産税が心配

・家:古くて売れそうにない、更地にしても使い道がない

・気持ち:いつか使うかも、手放すと戻れない、特に困っていない

ここに、話し合いのヒントがあります。

「売りたくない」という一言の中身は、人によって違います。仏壇の置き場所が決まれば納得する人もいれば、税金の心配が消えれば前に進める人もいます。

反対の理由がどれに当たるのかが分からないまま「売るべきだ」と説得しても、話はかみ合いません。

相続前に何か対策をした家は、4軒に1軒以下

同じ調査では、相続で空き家を取得した世帯に「相続の前に何か対策をしたか」を聞いています。

相続前に対策した家

結果は、対策をした家が23.0%、特に何もしていない家が77.0%でした。

行った対策でいちばん多いのは「被相続人(親など)との話し合い」で16.7%。遺言の作成支援は1.8%、後見制度や家族信託の活用は1.3%にとどまります。

つまり、多くの家では、親が元気なうちに家の今後を話さないまま相続を迎えています。

家族信託や遺言のような専門的な手続きよりも、まず「話し合い」が最初の一歩になっていることも分かります。

対策しなかった家は「空き家のまま」が約1.5倍

では、相続前の対策は、その後に違いを生んでいるのでしょうか。

方向性を見つけにくい

調査時点(2023年10月)で「空き家として所有していた(物置を含む)」割合は、

・相続前に対策した家:29.4%

・対策していない家:45.1%

と、約1.5倍の差がありました。

その後の約1年で空き家でなくなった(売却・賃貸・解体・入居など)割合は、対策した家が21.3%、していない家が13.3%。

まだ空き家の家に今後5年の予定を聞くと、「売却する」は対策した家が26.6%、していない家が20.7%でした。

もちろん、これは「対策したから動いた」と言い切れるデータではありません。もともと家族の仲がよい、話題にしやすいといった事情も関係しているかもしれません。

それでも、相続の前に一度でも話しておいた家のほうが、その後に家の行き先が決まりやすい傾向は、はっきり出ています。

話し合いには「時間の締め切り」がある

「まだ親も元気だし、そのうち話せばいい」と思いがちです。ただ、先送りには見えにくい締め切りがあります。

タイムリミット

・所有者の年齢:空き家を持つ世帯の家計を支える人の約3分の2(65.5%)が65歳以上です。

・判断力の変化:厚生労働省の研究班は、認知症の高齢者が2025年の約472万人から、2040年には約584万人に増えると推計しています。

・売却の手続き:親の判断力が落ちて成年後見を使うことになると、親が住んでいた家を売るには家庭裁判所の許可が必要になります(民法859条の3)。家族だけで決めることは、できなくなります。

・相続登記:2024年4月から、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の登記申請が義務になりました。それより前の相続でも、未登記なら2027年3月31日までに申請が必要です。

ちなみに、同じ調査では「関係者が認知症などで意思決定できない」「所有者が複数で合意が難しい」を理由に空き家のままにしている世帯も、少数ながらあります。

話し合いは、親がしっかり自分の言葉で希望を話せるうちが、いちばん進めやすい時期です。

「説得」より「整理」から始める5つのステップ

反対する家族を言い負かす必要はありません。目的は、家族みんなが納得できる「家の行き先」を一緒に見つけることです。

調査結果をふまえて、進め方を5つにまとめました。

まず整理から

1. 聞く

まずは反対の理由を最後まで聞きます。途中で反論しないのがコツです。聞いた理由を「物・お金・家・気持ち」のどれに当たるかメモしておくと、次に何を調べればよいかが見えてきます。

2. 調べる

査定額、固定資産税、年間の維持費、解体するならその費用。数字を家族で同じ紙に書き出します。「売れるかどうか」は思い込みで話さず、まず確かめることが大切です。

3. 並べる

売る・貸す・残して管理する・解体する。それぞれの費用や手間を、同じ表で比べます。一つの案だけを押しつけないことで、反対していた家族も話に入りやすくなります。

4. 決める

すぐに売ると決めなくてもかまいません。「◯年までは残す」「仏壇と写真は持ち帰る」など、期限と残す物を決めるだけでも、大きな前進です。

5. 残す

決めたことはメモにして、家族で共有します。親の考えを確実に残したい場合や、将来の判断力が心配な場合は、遺言や家族信託について専門家に相談する方法もあります。

反対の理由が「物」なら、片付けや仏壇の移し先を先に決める。「お金」なら数字で確かめる。「気持ち」なら、すぐに結論を出さず、期限つきで残す案を出す。

理由に合った答えを用意すると、話し合いはぐっと進めやすくなります。

まずは、次の帰省で一つだけ聞いてみる

どの道が正解かは、家庭によって違います。売らずに残すことが、その家族にとっていちばんよい選択の場合もあります。

大切なのは、決めないまま時間が過ぎてしまうことを避けることです。

今日からできることを挙げます。

・次の帰省や電話で「この家、将来どうしたい?」と一つだけ聞いてみる

・家の名義が誰になっているか、相続登記が済んでいるかを確認する

・固定資産税の通知書を見て、毎年いくらかかっているかを家族で共有する

・売る・貸すの目安を知るために、査定を一度とってみる(すぐ売る必要はありません)

数字がそろうと、話し合いは「気持ちのぶつかり合い」から「家族の相談」に変わります。

まずは小さな一言から始めてみてください。

__________

■出典

・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント」「同 報告書」(2025年8月29日公表)

https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html

・厚生労働省 研究班「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(2024年5月公表)

https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf

・法務省「相続登記の申請義務化」

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html

・民法 第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)

※空き家として所有しておく理由は、今後5年間程度は空き家として所有しておく意向の世帯(約32万3千世帯の推計)への複数回答です。「物・お金・家・気持ち」の分類は筆者によるものです。

※相続前の対策の有無による比較は、相続で空き家を取得した世帯(約74万2千世帯の推計)が対象です。「この1年ほど」は2023年10月1日から2024年12月1日まで、「今後5年」の意向は2024年12月1日時点でまだ空き家の住宅についての回答です。比較は傾向を示すもので、対策が原因で結果が変わったことを示すものではありません。

※所有者の年齢は「所有世帯の家計を主に支える者」の年齢です(65〜74歳39.0%、75歳以上26.5%)。

※認知症の高齢者数は、2022年の年齢別有病率が今後も変わらないと仮定した推計です。

※成年後見人が本人の居住用の建物や敷地を売却するときは、家庭裁判所の許可が必要です。個別の判断は家庭裁判所や専門家にご相談ください。

※相続登記は、正当な理由なく期限内に申請しない場合、10万円以下の過料の対象となります。遺産分割がまとまらない場合などは「相続人申告登記」という簡易な方法もあります。詳しくは法務局や司法書士にご確認ください。

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